《妖精》のような少女は、僕にそう伝えたー。
主人公だから最近まで生き延びるのではない。
最近まで生き延びた者が主人公の地位を得る。
そんなことはともかく、朝凪巽というのがその少年の名前である。
現在十五才。特筆すべき外見的特徴はこれと言ってない。
クラスで人気投票をしたとしよう。一般性に流されることを嫌う女子が二票くらいは入れてくれそうなというか、なんというか、とにかく普通としか言いようがない顔立ちをした男子生徒だ。
その彼が歩いているのは、これもまたどこの地方部市にもありそうな住宅街である。どことなくぼんやりした表情で歩を刻む朝凪巽だったが、持に思い悩む何かがあったりするわけでも、人生において重大な問題を抱えている最中でもない。単にぼんやりしているだけである。
まだ身になじんでなさそう制服姿と学生鞄の真新しさから解るとおり、つい先だって高橋生になったばかりで、今は学校からの帰り道であり、しかもぽかぽか陽気の春の頃合いということもあって身体のどこを見回しても緊迫感など欠片もなかった。
住み慣れた街並みは彼にとって旧知のものだ。これといった事件など起きたためしもない。面白みには欠けるが、つまるところ平穏な街なのである。
無論、危険がどこからどのようにやって来るかは予測することは難しい。たとえば交通事故。いくら自分が注意していたとしても、不可抗力や出会い頭にぶつかってしまうことはありうるものだ。
もっと常識を逸脱したたとえで言ってもいい。空から落ちてきた小さな隕石にぶつかる確率さえ決してゼロではない。ゼロでないということは、つまり「そんなこともある」ということであり、もしあったとしたら、それはもはや不注意というより世にも不条理な出来事の範疇であって、そこまで行けば誰の責任でもない。
そいうわけで、その日。春の夕方、自宅めざして歩いていた朝凪巽がこうむった事故的な出来事は、誰にも予測できなどしなかったと思われる事故以前のものだった。
[Note: I won't be posting anything after the prologue, even when I type it in; if you want to read it, buy a copy. $8 at Kinokuniya, also available on amazon.co.jp. As I work out the bugs in my glossing library, I'll be posting annotated versions of some other student-readable documents, such as the dialogues from past JLPT tests and the out-of-print Japanese For Today text, but definitely not entire recently-published novels by popular writers.]